ほとけの教え

ようききや、大切なのは、今・心・人・言。

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以前、創業元禄元年(1689)、

麩商半兵衛麩十一代目・玉置半兵衛氏の著書

『あんなぁ よおうききや』(京都新聞出版センター) を拝読しましたが、

中でも〝漢字〟と題された話は、

さまざまなことを学ばせていただく内容でした。

今回は、そのことを抜粋して紹介しようと思います。

 

玉置半兵衛氏の先代(筆者の父)は

よく火鉢を囲んで話をしてくれたそうで、

そのときに火鉢の灰をきれいにならし、その灰の上に火箸で字を書いて、

いろいろな漢字の意味を教えてくれたそうです。 

たとえば、

幼い息子(筆者)をその場で立たせて、足を開かせ、

「その格好は人の立っている格好だから『人』の字になったんや。手を広げてみ、

人が手を広げて大きく見えるから『大』の字になったんや」

というように。 

さらに、水が流れているから『川』、木の形をだんだん変えて『木』、  

一本でなく何本も木があるから『林』、十字の畦道があるから『田』、 

田で力を出して働く人を『男』というように、  

漢字には必ずわかりやすい意味があり、  

また漢字から教えられることが沢山あると、 

子どもが興味をもつように話をしてくれたそうです。

そして先代は、

息子に向けて、次のような漢字の話をします。

「他人(ひと)にものを『いう』はどんな字を書く? 

『言う・云う』て書くやろ。ものを言えるのは人間だけや。

犬は鳴くのや。『言う』の横に人べんをつけてみ。

『信』の字になる。話をするから信じられるのや。

『伝』は人に云うから伝わるの字になるのや。

黙っていたら何を考えたはる人かがわからへん。

言うから信じてもらえるのや。

黙ってたら

何を思たはるのかわからへんから、伝わらへんのや」 

先代は、さらに、 

〝従業員同士が相手を疑うような店ではなく、

お互いが話し合って信じ合えるような

従業員ばかりが集まっている店にしなければならない。

信じ合っている者ばかりが集まっているお店は、

『信』の字の横に『者』をつけて『儲』となる、

つまり、儲かる店になる〟

と教えます。

ここまででも、子どもにわかりやすい素適な話なのですが、

この後に続く先代の言葉が

今日のわたしたちも学ぶべき心が説かれているのです。

 

「おまえも大きなって商人になったら、

お互いが信じ合える者同士が集まって

仕事をするようにせんとあかん。

昔と違うて、もう親方、旦那さんとか、番頭、丁稚と

身分の差別をする時代やない。

仕事の上で上司と部下になっても、人間としての差別は何もないのんや」

~中略~

「商売するようになったら

『信じ合える者が集まって、みんなで良い麩を作ろう。

人間としてお互いに差別なく、上司、部下としての責任のある仕事をしよう。

このご縁を大切にしよう、今この世に生きている者同士仲良くしよう。

他人の喜ぶことをしよう、他人さまのお役に立とう』

これがうちの商売の心構えの基本や。

商売ができるようになったら、

おまえの商売の心構えをいつもみんなに言うのが大事やと思う」

そして最後に、先代はいつものように火鉢の灰の上に、

『今』の『心』を『人』に『言』と書き、

「これらの漢字を置き換えたら『信念』という漢字になる」と教え、

「信念のない店はアカン」

と教えたそうです。

 

―― 今・心・人・言 を組み合わせて、〝信念〟――

このようにして先代に教えられた商売の心構えの基本は、

今日も麩商半兵衛麩で大切にされているそうです。

 

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ちなみに、この本のはじめには 

先代から教えられたという

十一代目のこんな素敵な言葉が記されています。 

〝心は、形がないからこそ、何百年たっても、 

いつまでも、新しいものとして伝えられていくのでしょう〟

 

これから先がどうなるかわからないとき、

人は不安になります。

しかし、何か一つ、大切にすべき信念を持っていると、

人は自らの心の不安に打ち勝ち、

人生という道をしっかりと歩むことができます。

①ご縁を大切にしよう 

②今、この世に生きている者同士仲良くしよう 

③他人の喜ぶことをしよう

④他人さまのお役に立とう 

という、 

この四つの麩商半兵衛麩の信念は、 

商売人としての心構えであることはもちろん、 

仏教でも説かれている 

〝人として大切にすべき信念〟

といえるでしょう。

現代は、政治、経済、治安、自然など、

身の回りで不安を感じることばかりが渦巻いています。

しかし、どんな時代、どんな世の中でも、

自分の 今・心・人・言 をつねに考え、

またそれ以上に他人(ひと)の 今・心・人・言 を考えながら行動していれば、

人は、

それぞれの進むべき道を

しっかりと歩んでいけるものです。

 

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